7月10日 ラインの黄金 バイエルン国立歌劇場
舞台には何人もの人たちが、、
開演時間が近づき、ホールの扉が開いたので、ホワイエから中をのぞくと、舞台上には何十人もの白い服を着た男女がいる。さて、舞台上の人たちであるが、座ったり、話したり、あるいは、軽食が配られ、それを手に取って食べていたりする。まるで、合唱団の舞台稽古の休憩時間のようだ。一体、彼らは何者なんだろう?
よく見ると、後方には、白い衣装の人たちとのコントラストが目立つ、黒い衣装のアルベリヒと青いドレスのラインの乙女もいる。
すると、全員が白い衣装を脱いでアンダーウエアになり、缶に入った青い塗料を身体に付け始める。ラインの黄金には合唱はないのだから、彼らは歌手ではないことは言うまでもない。彼らは、「舞台装置」、つまり、「ライン川の流れ」であることに気がつく。
舞台前方に置かれた数個の椅子に、男女のカップルが座り、男性が女性を波を表すように揺らし始める。残りのメンバーは床に寝そべり、波を表現するように体を動かす。ラインの乙女が舞台後方から、「人間の波」の中を前に進んで、歌い始める。
人間は、頭脳と手足をもち、繊細な表現を自由に動きながら行える。また、集団でも一人一人でも、場面に応じて、自在に編成を変えることが可能である。そのような人間を舞台装置として使って行こうというのが今回の舞台演出のコンセプトである。
アルベリヒがラインの乙女を追いかけ、岩に滑るあたりは、みんなが音楽に合わせて腕立て伏せ?をして表現するところは、ちょっとユーモラスである。舞台装置を生身の人間が勤めるというコンセプトなので、ラインの黄金も予想どおり?人間が勤める。つまり、体が黄金色に塗られた人が演じている(と言うか、ただ単にだらんとしているだけだが)。
舞台装置の枠を超えて、「雰囲気」を作ることもある。例えば、フライアの登場するときなら、花を持った人が何人かが、フライアを取り囲むようにして一緒に出てくるのだ。
巨人族の演出として、何かの上に載って体が大きいことを示す演出が多い。今回の、巨人族も人の背丈程ある立方体に載って出てきた。が、その立方体が、何人かの人間を圧縮プレスして作ったように見えるオブジェであった。私は、舞台装置を人間で作るコンセプトであるが、現実的には人が載るものを作るのは難しいので、逆に、人間で作ったかのようなオブジェにしたと受け取った(一種のユーモア)。
彼らは、舞台の進行を進める役割も果たす。例えば、アルベリヒの変身シーンでは、目眩ましのためのランプを手にもって、舞台の観客の目から、アルベリヒが消えるための手助けをする。大蛇オブジェの柄を持って、舞台を歩くのも人間で、「黒子」とは異なり、堂々と姿を現して行う。
彼らが舞台後方に、後ろ姿で一列に左右に並び、何人かおきに高い台に載ることで、ヴァルハラ城を現す。
弱めのヴォータン
今回の演出で目立ったのは、ヴォータンが、神々の長としての強さを持ったヴォータンではないこと。
ヴォータンは登場の時も、疲れたように出てきて、靴だけ脱いで、舞台で寝込んでしまう。すると、フリッカがその靴を両手に取って、パンと打ち鳴らして起こすというところから冴えない。
指輪を巨人に渡さないと言う場面で、ドンナー以下の神々に舞台右端に詰め寄られるあたりから、もうよれよれで、自分で判断する力がなくなったかのよう。エルダの預言を聞いた後に、「フライア、こちらに来なさい」と言うのも、ドンナーに言わされた感がある。
逆に、ハンマーは振り回している割には、存在感のないような扱いをされがちのドンナーが、結構、しっかり者として描かれていた。
フライアは、ファフナーに殺されたファーゾルトに駆け寄ろうとし、ファーゾルトが殺された後は放心状態。フローやドンナーが相当しっかり慰めて、ようやく、他の神々と一緒にヴァルハルに向かう。新しい居城に向かう神々の一族には、危機を脱した安心感というよりは、深刻な亀裂が入ってしまった一族という印象を受けた。
逆に、ハンマーは振り回している割には、存在感のないような扱いをされがちのドンナーが、結構、しっかり者として描かれていた。
フライアは、ファフナーに殺されたファーゾルトに駆け寄ろうとし、ファーゾルトが殺された後は放心状態。フローやドンナーが相当しっかり慰めて、ようやく、他の神々と一緒にヴァルハルに向かう。新しい居城に向かう神々の一族には、危機を脱した安心感というよりは、深刻な亀裂が入ってしまった一族という印象を受けた。
主役はローゲ
神々の一族が、後方のヴァルハラに向けて後ろ姿で去って行く時に、舞台正面の真ん中に、どっかり座って高らかに笑っているのが、ローゲである。
今回のラインの黄金の主役は、ローゲだろう。演出家の意図もあってのことだろうが、歌手の技量も素晴らしいものがある。カーテンコールでのブラボーも一番多かった。
赤いスーツに白髪の長い髪をなびかせて、ステッキをつきながら歩き回るその姿は、裏で筋書きを練る策略家そのもの。
例えば、黄金をめぐるファフナーとファーゾルトの争いの際には、ト書きにあるとおり「指輪を選べ!」とけしかけるだけでなく、ファフナーの目の前にナイフをちらつかせて、ファフナーがそのナイフを取ってファーゾルトを刺し殺すという流れになっていた。
今回のラインの黄金の主役は、ローゲだろう。演出家の意図もあってのことだろうが、歌手の技量も素晴らしいものがある。カーテンコールでのブラボーも一番多かった。
赤いスーツに白髪の長い髪をなびかせて、ステッキをつきながら歩き回るその姿は、裏で筋書きを練る策略家そのもの。
例えば、黄金をめぐるファフナーとファーゾルトの争いの際には、ト書きにあるとおり「指輪を選べ!」とけしかけるだけでなく、ファフナーの目の前にナイフをちらつかせて、ファフナーがそのナイフを取ってファーゾルトを刺し殺すという流れになっていた。
衣装は全員モダンなもの。変なオーバーデザインなところがなく、シンプルで、色使いも、ローゲの赤いスーツのように、役柄上、色が変わっている例外を除けば、奇を衒ったところがなく、そのまま街を歩いても違和感が感じないようなもので、非常に好感が持てた。
終演後
オペラハウスから出る際に、二階への階段が目に留まり、上を見上げると、豪華な二階の天井やシャンデリアが目に留まった。今日は、1階と地下しか見ていないことに気が付く。次回以降、他の階も見ておこう。
終演後、ローゲに一言感激したと伝えようと楽屋口で待っていたが、結局会えなかった。ずっと前から待っていたと思える白髪の男性に、今日のローゲは出てきたかと聞いた時には、まだと答えてくれたが、その後、もうこの時間まで経っても来ないのは、他の出口から帰ったのだろうと言われて断念。その人に、今日のローゲは素晴らしかったと言うと、彼は有名な歌手ではないが、良かったと同意してくれた。
終演後、ローゲに一言感激したと伝えようと楽屋口で待っていたが、結局会えなかった。ずっと前から待っていたと思える白髪の男性に、今日のローゲは出てきたかと聞いた時には、まだと答えてくれたが、その後、もうこの時間まで経っても来ないのは、他の出口から帰ったのだろうと言われて断念。その人に、今日のローゲは素晴らしかったと言うと、彼は有名な歌手ではないが、良かったと同意してくれた。
その方は今日のヴォータンも良かった。ただこのプロダクションは、ヴォータンが変わってしまうので、もう彼は出てこないけれどと言っていた。その方は、ミュンヘンにお住まいだそうです。
楽屋口で待っている間にファフナー役のフィリップ・エンスに会えた。以前、ロイヤルオペラのジークフリート(2005/10/22)の後であなたと会っているんですと伝えると喜んでくれた。
おっとりしたナイスガイで、背も私と同じ位で、一見、バス歌手には見えない。普段着のカジュアルな服装では、アメリカン・フォーク・ロックのギタリストというイメージだ。このサイクルをすべてみるのか?と聴かれて、yesと答えると、彼は、僕は他の演目はよく知らないんだと言っていた。
そう、彼は、ジークフリートのファフナーは歌わないのだ。ファフナーだけでなく、ヴォータン、ジークフリートなどの役を、サイクル上演にも拘らず、必ずしも同じ歌手にしていないのが、今回のプロダクションの特色でもある。アルベリヒのように共通している歌手もあるのだが。
Wagner, Das Rheingold. Bayerische Staatsoper Ring Zyklus B
Musikalische Leitung : Kent Nagano
Inszenierung : Andreas Kriegenburg
Bühne : Harald B. Thor
Kostüme : Andrea Schraad
Licht : Stefan Bolliger
Choreographie : Zenta Haerter
Wotan : Johan Reuter
Donner : Levente Molnár
Froh : Thomas Blondelle
Loge : Stefan Margita
Alberich : Wolfgang Koch
Mime : Ulrich Reß
Fasolt : Thorsten Grümbel
Fafner : Phillip Ens
Fricka : Sophie Koch
Freia : Aga Mikolaj
Erda : Catherine Wyn-Rogers
Woglinde : Eri Nakamura
Wellgunde : Angela Brower
Floßhilde : Okka von der Damerau
楽屋口で待っている間にファフナー役のフィリップ・エンスに会えた。以前、ロイヤルオペラのジークフリート(2005/10/22)の後であなたと会っているんですと伝えると喜んでくれた。
おっとりしたナイスガイで、背も私と同じ位で、一見、バス歌手には見えない。普段着のカジュアルな服装では、アメリカン・フォーク・ロックのギタリストというイメージだ。このサイクルをすべてみるのか?と聴かれて、yesと答えると、彼は、僕は他の演目はよく知らないんだと言っていた。
そう、彼は、ジークフリートのファフナーは歌わないのだ。ファフナーだけでなく、ヴォータン、ジークフリートなどの役を、サイクル上演にも拘らず、必ずしも同じ歌手にしていないのが、今回のプロダクションの特色でもある。アルベリヒのように共通している歌手もあるのだが。
Wagner, Das Rheingold. Bayerische Staatsoper Ring Zyklus B
Musikalische Leitung : Kent Nagano
Inszenierung : Andreas Kriegenburg
Bühne : Harald B. Thor
Kostüme : Andrea Schraad
Licht : Stefan Bolliger
Choreographie : Zenta Haerter
Wotan : Johan Reuter
Donner : Levente Molnár
Froh : Thomas Blondelle
Loge : Stefan Margita
Alberich : Wolfgang Koch
Mime : Ulrich Reß
Fasolt : Thorsten Grümbel
Fafner : Phillip Ens
Fricka : Sophie Koch
Freia : Aga Mikolaj
Erda : Catherine Wyn-Rogers
Woglinde : Eri Nakamura
Wellgunde : Angela Brower
Floßhilde : Okka von der Damerau

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