2021年12月2日木曜日

自分がこれまでに接したマイスタージンガーの公演

ニュルンベルクのマイスタージンガー は、ワーグナー の主要作品のうち唯一の喜劇ですが、個人的には、一番、親しんでいなかった作品です。

悲劇である他の主要作品のほうが、神秘的な要素もあるので、「ハッピーエンドのラブストーリー」に比べて、なんとなく高尚に感じられたためかもしれません。

今回の新国立劇場の上演を3回観て、他の主要作品と同じくらい好きな作品になりました。

その割には、日本での実演には結構な確率で接しているのは、多数の出演者が必要なこの作品の多いとは言えない日本での公演の機会にたまたま当たったたためです。


自分がこれまでに接したマイスタージンガーの公演を備忘録として作ってみました。


たまたま、チケットが安く手に入ったの行ってのが、2002年二期会)の上演
ホワイトを基調にした清々しい衣装で、第3幕の職人組合は1階席後方から行進して舞台に上がるという演出でした。

2002年7月27日(土)午後3時〜 東京・東京文化会館
二期会オペラ振興会の創立50周年記念。
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の21年ぶりの本格的な舞台公演。
ベルギー・ブリュッセルのモネ劇場のプロダクション。

ハンス・ザックス:多田羅迪夫
ポーグナー:池田直樹
ベックメッサー:大島幾雄
ヴァルター:福井敬
エーファ:佐々木典子
クンツ・フォーゲルゲザング:大野光彦
コンラート・ナハティガル:米谷毅彦
バルタザール・ツォルン:松永国和
ウルリヒ・アイスリンガー:牧川修一
アウグスティン・モーザー:湯川 晃
ヘルマン・オルテル:太田直樹
ハンス・シュヴァルツ:鹿野由之
ハンス・フォルツ:谷 茂樹
指揮:クラウス・ペーター・フロール  
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出:クルト・ホレス  
美術:アンドレアス・ラインハル
http://www.nikikai.net/lineup/past/meistersinger/index.html


現在はほとんど行かなくなった新国立劇場ですが、当時は新演出なら出かけていたので観たのが2005年の公演。
リチャード・ブルナーのヴァルターは美しく力強い歌唱で、観客受けも大変良かったと記憶しています。

2005年9月23日(金)午後2時〜 新国立劇場
ハンス・ザックス:ペーター・ウェーバー
ファイト・ポーグナー:ハンス・チャマー
クンツ・フォーゲルゲザング:大野光彦
コンラート・ナハティガル:峰 茂樹
ジクストゥス・ベックメッサー:マーティン・ガントナー
フリッツ・コートナー:米谷毅彦
バルタザール・ツォルン:成田勝美
ウルリヒ・アイスリンガー:望月哲也
アウグスティン・モーザー:高橋 淳
ヘルマン・オルテル:長谷川 顯
ハンス・シュヴァルツ:晴 雅彦
ハンス・フォルツ:大澤 建
ヴァルター・フォン・シュトルツィング:リチャード・ブルナー*
ダーヴィット:吉田浩之
エーファ:アニヤ・ハルテロス
マグダレーネ:小山由美
夜警:志村文彦

指揮:シュテファン・アントン・レック
演出:ベルント・ヴァイクル
美術:フランク・フィリップ・シュレスマン
衣裳:メヒトヒルト・ザイペル
*リチャード・ブルナーのヴァルターは、「都合により来日できなくなった」トルステン・ケールの代役


2005年9月は、マイシタージンガーが2つ上演されましたが、バイエルンの来日公演は高額のチケットの売れ行きが悪かったせいか、売れ残り?が安く手に入ったので、行ってみました。
同じ時期の新国立劇場の上演と比較したとある雑誌の記事では、「リハーサル不足や詰めの甘い指揮、さらに作品を強引にナチスと結び付ける演出が不評だった」と書かれています。
「名門オペラ来日公演が存亡の危機」
https://facta.co.jp/article/200909030-print.html

この演出では、マイスターになったヴァルターが、極右翼の集団に取り込まれてしまった後に、ベックメッサーが「こちらのほうがマトモ」といった感じで現れます。

2005年9月29日(木)午後4時〜 NHKホール
バイエルン国立歌劇場の来日公演

ハンス・ザックス:ヤン=ヘンドリック・ロータリング
ファイト・ポーグナー:ハンス=ペーター・ケーニッヒ
クンツ・フォーゲルゲザング:ケネス・ロベルソン
コントラート・ナハティガル:クリスティアン・リーゲル
ジクトゥス・ベックメッサー:アイケ・ヴィルム・シュルテ
フリッツ・コートナー:トム・フォックス
バルタザール・ツォルン:ウルリッヒ・レス
ウルリッヒ・アイスリンガー:ヘルマン・シャペル
アウグスティン・モーザー:フランチェスコ・ペトロッツィ
ヘルマン・オルテル:スティーヴン・ヒュームズ
ハンス・シュヴァルツ:アルフレッド・クーン
ハンス・フォルツ:アンドレアス・コーン
ヴァルター・フォン・シュトルツィング:ペーター・ザイフェルト
ダーヴィド:ケヴィン・コナーズ
エヴァ:ペトラ=マリア・シュニッツァー
マグダレーネ:グリット・グナウク
夜番:ラインハルト・ドルン
合唱監督:アンドレス・マスペロ
管弦楽:バイエルン国立管弦楽団
合唱:バイエルン国立歌劇場合唱団
指揮:ズービン・メータ
演出:トーマス・ラングホフ
舞台美術:ゴットフリート・ピルツ
衣裳:ゴットフリート・ピルツ
振付:マルコ・サンティ
ドラマトゥルーク:エヴァ・ヴァルヒ


演奏会型式のオペラは、基本的に行かないことにしているので、お気に入りの歌手の一人であるKlaus Florian Vogtが出演するのにも拘らず行かないつもりでしたが、エーファがガブラーに変わったので行ってみたのが、この公演
ギュンター・グロイスベックが夜景も歌っていました。

2013年4月4日(木)15:00開演 東京文化会館 
ハンス・ザックス:アラン・ヘルド
ポークナー:ギュンター・グロイスベック
フォーゲルゲザング:木下紀章
ナハティガル:山下浩司
ベックメッサー:アドリアン・エレート
コートナー:甲斐栄次郎
ツォルン:大槻孝志
アイスリンガー:土崎 譲
モーザー:片寄純也
オルテル:大井哲也
シュヴァルツ:畠山 茂
フォルツ:狩野賢一
ヴァルター:クラウス・フロリアン・フォークト [メッセージ動画]
ダフィト:ヨルグ・シュナイダー
エファ:アンナ・ガブラー
マグダレーネ:ステラ・グリゴリアン
夜警:ギュンター・グロイスベック
管弦楽:NHK交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_1035.html



完売だった明日の #ニュルンベルクのマイスタージンガー @nntt_opera の良席をゲット

2015年10月3日土曜日

Richard Wagner : DaS rHeINGoLD

18th, 20th, 22rd September 2015 at Jahrhunderthalle Bochum

ラインの黄金

《前書き》
今、話題の指揮者クルレンツィスが、ラインの黄金を振る(彼のワーグナー・デビュー)。しかも、ルールトリエンナーレという、以前から気になっていた芸術祭で、今年がプレミエの新演出!

2015
9月には何年か振りのシルバーウィークがあり、有給休暇をつけて、出かけることにした。


ルールトリエンナーレのサイトの説明も期待を持たせる記述になっている。
 英語版:https://www.ruhrtriennale.de/en/das-rheingold
 ドイツ語版:https://www.ruhrtriennale.de/de/das-rheingold

まず、作曲者と作品について
  • ワーグナーはラインの黄金でルール地域の物語を語っているように見える。
  • ラインの黄金は、1848年頃の若きワーグナーが抱いていた革命的左翼思想を反映した作品である。
  • ワーグナーは人類を精神的に作り変えるような神話的な体験を作り出すことを欲していた。
演出家と指揮者の抱いた課題について
  • どうすれば、ワーグナーの最も急進的にして、かつ、劇場的なスコアの持つ革命的なパワーを現代に蘇らせることができるのか?
  • どうすれば、ワーグナーの反資本主義的メッセージと神話的な体験という概念を伝えることができるのか?

さて、どんなラインの黄金を経験できるだろうか?

《会場》
会場であるJahrhunderthalleは、非常に大きな工場として使われていた建物で、その建物の幅と同じ長さのガラス張りのスペースが建物の正面に追加されており、そのスペースの左端にはバー、その隣に軽食コーナーや案内所兼記念グッズのお店、書籍やレコードの出店が右端に向かって並んでおり、そこかしこに現代アートが置かれている。

ホール内に入ると、奥にオペラ会場が設営されているが、そこまでの空間がオペラ会場並みに広い。巨大な工場の右奥にコンサート会場を設営し、残りの空間を奥と手前で半分に分けて、奥がオペラ会場に、手前が空きスペースになっている。
オペラの開演日には、開演前に、右奥のコンサート会場で、今回のプロダクションの登場人物(歌手では無い)のStefan Hunsteinによる「ラインの黄金」の説明会が開かれていた。
オペラ会場への入り口は、観客席から見て左手になるが、観客だけでなく出演者もここから出入りをすることになる。

《オペラ会場》
オペラ会場に入ると、舞台は3階層になっていて、手前の一番低い階層に、四角い池(プール?)が左右に三つ並んでいる。池には女性のマネキンが三体(左に一体、中央に二体、全員頭を右に向けて)倒れている他に、遺跡の断片のような陸になった部分もある。
中央の池の陸の手前にガラスの装飾品を散りばめたオブジェが意味あり気に立っている。が、このオブジェは使われなかった。

そこから階段を6段段上った階層に指揮台とオーケストラ席が設置され、さらに階段を数段上った階層に、三階建の新しい建造物の白いファサードが見え、その右側手前に椅子が置いてある。



観客の入場が始まったあたりから、白いファサードの前に執事が手持ち無沙汰に立ったり座ったりしている。彼は開演前にオペラの解説をしていたStefan Hunsteinで、オリジナルの台本にはないこのプロダクションで追加された登場人物で、かなり重要な役割が与えられている。

開演前からファフナーが左手の外の空きスペースをウロウロしているのが、観客席から見える。

《クルレンツィス登場》
左手の入り口からクルレンツィスが左右の二人の男性と手を組んで、一見、二人に連行されるように登場。もう一人の手ぶらの男性が一緒に舞台に上がる。この三人の男性はコントラバス奏者なので楽器を手にしていない。

続いてファゴットの二人が楽器を手にして登場。二人とも東洋系の顔立ちの男性だ。次にホルン奏者が登場。ホルン奏者の最後は日本人かなと思える小柄で黒髪の女性。左手からはバイオリン奏者が、右手からはチェロや木管楽器奏者が順次登場し、手前の池から階段で6段高い位置にある真ん中の階層に着席する。

オーケストラの団員はユースオーケストラかと思う程、ほとんどが非常に若い人たちだ。
実は、公演後、街中でバイオリンケースを持った数人のグループを見かけたので、もしやと思い尋ねてみると、オーケストラの団員で、少しお話ができたことも良い思い出になった。

クルレンツィスは黒装束で、靴はハイカットで、レースアップのカジュアルなシューズ、ボトムは脚にピッタリした細身のズボン、トップスは袖がかなりゆったりした長袖のシャツ。黒く無いのは赤い靴紐だけ。その出で立ちだけでもバレーダンサーのように見えるが、彼の軽やかな指揮振りがその印象をさらに強く感じさせる。

《前奏曲》
指揮台のクルレンツィスは、精神統一をしているのだろうか、指揮を始めるまで、指揮台に両手を突いた前屈みの姿勢で暫く静止状態。
やがて前奏曲が始まるが、このホールには、ラインの黄金の最初の持続低音が延々と鳴っており、その低音がオーケストラに切り替わり、やがて木管が入ってくるといった流れになる。

《第一場》
炭鉱労働者風の出で立ちのアルベリヒが左手の入り口から登場、左の池に長靴で入っていくと、頭を左にして横たわる。
右手からかなり高齢の女性が、年齢を感じさせるようなゆっくりと、よちよちとした歩き方で池の中に入ってくる。池の中にマネキンと金色の子供用ワンピースを一瞥すると、右端に戻って右端の池の縁に腰掛けるが、その途中で中央の池の二体のマネキンの間の水の中から何か小石のようなものを拾い上げる。彼女はじっとこれから起きる事件を目撃するのだが、ラインの黄金に高齢の女性の登場人物はいないので、一体誰なのかは、後で彼女が歌い出すまで分からなかった。

ラインの乙女は、指揮者の右手に譜面台?を前にして座って歌い出す。演奏会形式でよくある配置なので、あまり演技はしないのかと思ったが、順番に手前の池に降りてきて相当活発に演技をすることになる。
3人は、濃い青色のワンピースに長靴というのは共通しているが、明確にキャラクター付けがされており、Woglindeは濃い色の髪、キャピキャピというか活発そう、Wellgundeは茶色の髪で大人の女性というかセクシーな、Floßhildeはブロンドで、クールビューティといった印象。Wellgundeのスカートは他の二人より切れ込みが深く、池の中で腰掛けた時には、ストッキングのガーターが見えたりする。

アルベリヒがラインの乙女に求愛するが、ラインの乙女たちは、倒れていた三体のマネキンを各人が使って、アルベリヒを揶揄う。マネキンの脚をアルベリヒに向かって広げたり、アルベリヒにマネキンの大きな胸が見えるように着ているトップスを下から捲り上げたりして、アルベリヒを挑発する。
Wellgundeがアルベリヒを誘惑しだしてアルベリヒがWellgunde向かうと、Woglindeがこちらの方が良いのではと言わんばかりにマネキンの着ているトップスを脱がせてその大きな胸を露出させる。Floßhildeも面白がって席から池に降りてきてアルベリヒを揶揄う。

マネキンを介することで、ラインの乙女たちは、アルベリヒを誘惑するものの、それは本心ではないことが上手く表現されていたと感じた。また、エロティックな演技や、絡み合いを生身の女性にさせないで処理した点は、実務的にも上手い処理だろう。
アルベリヒは、三体のマネキンを抱きしめたり、キスしたりと組んず解れつの熱演をしていると、ラインの黄金の光が差し込んでくる。

どうも、三人の中はしっくりいっていないようで、Floßhildeが黄金の秘密を喋らないように忠告すると、Wellgundeは何よ、お利口さん振ってという表情を見せる。歌詞に沿ったというか、歌詞の内容を強調した演出である。

マネキンを抑え込んだアルベリの背中に三人が馬乗りになるが、アルベリは三人を振り落とし、耳を押さえて苦悶の表情を見せる。

アルベリヒは、愛を呪う捨て台詞“so verfluch’ ich die Liebe!”を力強く歌うが“ich”だけは一瞬泣く様に表情を付けて歌うことで、彼の揺れ動く心境を表現していた。
他の歌手たちの歌唱も、綺麗に音符を再現すると言うよりは、演劇の台詞のように豊かな表情付けがされていたが、このアルベリヒの泣く様な“ich”がその良い例だろう。

“die Liebe!”の後で、スコアにない小型ロケットの発射音のような10秒程の電子音が鳴り響くが、すぐ、本来の音楽が続く。
アルベリヒは黄金(見た目は黄金というよりは、岩の塊)を奪って去っていく。

黄金の強奪を見ていたのは、右端に座っている老女だけでない。少し前から上の階層から現われた小柄な男性が、ラインの乙女が座っていた指揮台右横の椅子に腰掛けて、ラインの乙女たちとアルベリヒのやり取りを興味深そうに見ていたが、黄金が奪われると、素早く上の階層に走り去っていく。

黄金を失ったライン乙女たちは、欠片でも残っていないか池の中を探して、欠片を幾つか拾ってFloßhildeが両手で自分の前に持ち上げたスカートに集めるが、やがて、Floßhildeが手を放し、拾ったものを全て捨ててしまう。拾ったものは黄金ではなく、気休めに過ぎなかったのだろう。

ラインの乙女はマネキンを引き摺って左手に去っていく。Floßhildeがマネキンを引き摺るWellgundeを助ける。仲が悪そうに見えた二人であるが、この最悪の事態に二人の関係も修復されたのだろう。ステージの左の通路で用意された白いガウンを羽織って退場。

《第二場》
中央の池でアルベリヒが三体のマネキン相手に格闘しているあたりから、上の階層では、第二場が始まっている。実業家風のスーツ姿のヴォータンが登場、執事に飲み物を出させて椅子に腰かけて寛いでいる。

実は、ラインの乙女が欠片を探している間に、第二場の音楽が始まっているので、一番下の階層と一番上の階層で別のドラマが同時進行している。
違う階層で別のドラマが同時に進行していることが多いのも、この演出の特徴で、ステージ全般に気を付けている必要がある。ステージは左右の幅も広く、3階層になっているため高さも相当あり、全部を視野に入れておくことは(今回、前の方の席に座ったこともあるが)なかなか難しかった。

ヴォータンのシンボルは片目と契約の文字を刻んだ槍だが、この現代風のヴォータンの眼鏡は、右目のガラスに色が付いていて片目の様にも見える。
流石に槍は出てこないだろうと思ったら、内ポケットから取り出した万年筆が槍あるいは契約の象徴のように扱われていた。例えば、私の槍が契約を守ると言うところで、胸ポケットから取り出して自分の前に掲げるポーズをとるのだ。
現代の契約は署名で締結されるので、契約の象徴として署名に使う万年筆を使っているのだろう。

第二場で一番ショッキングなのは、フライアの扱いかもしれない。首輪を付け、テカテカ光る黒いラテックス素材のブラジャー、パンツ、太股までの長いブーツ、つまり、SM風の衣装なのだ。この女性が本来のフライアの登場前から舞台上で執事といちゃついたりして、誰だろうと思っていたのだが、実は、彼女がフライアなのである。
男性の愛玩の対象としてのフライアを表現したのだろうか。そのフライア、ロングドレスをSM風の衣装の上に着ると、途端に上品な女性に変身してしまうのだ。胸元からチラリと見える黒いブラジャーさえなければ、彼女の裏?の姿は全く想像できない。

フリッカが登場し、ト書き通りヴォータンに詰め寄った後で、あなたも言いなさいよとばかりにフライアを突いてけしかける。フライアは(ト書きでは登場しながら歌う)「助けて、お姉様、お兄様」と歌い出すが、その後で、突くことないでしょと言わんばかりに、フリッカを引っ掻く様なポーズを取る、といったコミカルな味付けがされていた。

ステージは工事現場の囲いの様な通路に囲まれており、左から現れた巨人二人はヴァルハルの背後を回って右側からヴァルハルの前に降りてきた。

オーケストラ奏者が立ち上がって、巨人の登場する際の音楽を演奏する。
ここでフライアはドレスを着せられて、首輪は着けたままであるが、印象がガラッと変わる。

フロー、ドンナーが登場。彼らは、品の良さそうなネクタイにスーツ姿。えんじ色なのはフリッカの衣装と同じ色。

フローとドンナーと巨人二人のやり取りは、フライアを巡ってコミカルなドタバタ劇として展開される。例えば、ファフナーにネクタイを掴まれてビビるフローの背中をドンナー、フリッカが頑張りなさい!と言わんばかりに後ろから押していく。
ヴォータンは背広の内ポケットから取り出した萬年筆を前にかざして「この槍に彫られたルーネ文字が契約を守る」と歌う。

さてローゲ(予想通り、アルベリヒの黄金の強奪を目撃していた小柄な男性だ)が登場、アルベリヒがラインの乙女達から黄金を奪った経緯を話す。
ローゲに指環を「奪う」のですと言われたヴォータンは膝をついて悩む。神の身であるのでそれは嫌だったのだろう。お坊ちゃんのフローは、目を見開いて口を大きく開けて、そんなお下品な!という表情を見せる。

ファフナーから、フライアの代わりに黄金を要求しようという提案を耳打ちされたファーゾルトは、最初は、プイと肩をいからせて離れてしまうが、少し考え込んだ後で、ファフナーの方に振り向いて頷く。

やがて、交渉は決裂、巨人族がフライアを連れ去ると、ヴォータンが躓くように前のめりになって座り込む。黄金の林檎のパワーが無くなってきたのだろう。
執事が黄金の林檎を載せた大皿を持って池の前に降りてくる。林檎は腐りかけており、執事が床に落とすと、グチャグチャに崩れてしまう。

ヴォータンがニーベルハイムに行くことを宣言、Verwandlungsmusikが始まるが、音楽が高まる部分で再びオーケストラが立ち上がる。

《今回の演出で追加された場面》
打楽器のみの部分が終わりかける所で、ワーグナーのト書きとスコアにはない、追加された場面が始まる。
ファーゾルトが舞台奥から登場、指揮台の前に置かれた金床の前に仁王立ちして、手にした大きなハンマーでガンガン叩く。
オーケストラの団員は持ち場を離れ、指揮台の横に置いてあったハンマーを手に取り、観客席の右左の通路に消えていく。私の席からは良く見えなかったが、観客席の周りの柱や壁を叩く即興演奏?をしていたと想像する。

執事役のStefan Hunsteinが拡声器を片手に、会場のそこかしこから聞こえるハンマーの音の聞こえる中、演説を始める。演説といったが、舞台の上を叫びながら動き回る(例えば、オーケストラの階層からプールの階層に飛び降りる)インパクトのあるものだった(6、7分はあった)。演説の内容は、資本主義や権力を批判する内容であったが、字幕にドイツ語と英語訳が出るとはいえ、舞台狭しと動き回る彼の動きを追いながら、細かい字幕を見るのは大変だった。
演説が終わり、オーケストラのメンバーが席に戻って、即興演奏(のように聞こえる)演奏を行った後で、本来の音楽に戻る。

《第三場》
ニーベルハイムに到着したヴォータンとローゲは、炭鉱労働者風のズボンに、顔には土汚れが付いている。
ヴォータンやローゲが神々の出で立ちのままでニーベルハイムに現れる演出がほとんど(少なくとも私はそうでない演出を見たことがない)、実は、この出で立ち、第四場の演出に上手く繋げているのだ。

隠れ頭巾は普通の炭鉱労働者用のヘルメット、大蛇はアルベリヒが自分の腕をクネクネさせるだけ、蛙はアルベリヒが蛙のように腰を落として座ってみせるだけ、アルベリヒの命令に従って黄金を運んでくるのはミーメのみ。運ばれてきた黄金も普通の石に見えるし、4つくらい重ねるだけ。
舞台装置を工夫してト書きを再現しようという意図は無いようだ。これはこれで、簡潔で悪くなかった。

ヴォータンが黄金をローゲが隠れ頭巾を奪ったあとで、ローゲは「解放しますか?」とヴォータンに訊きながらも、指を指差して指環を取るように示唆する。
ヴォータンは、執事に右手の掌を広げて、何かを持ってくるように指示する。
何かを5つ持ってこいという意味かと思ったが、手術用?の手袋が運ばれてきた。
ヴォータンは両手に手袋を嵌めると、万年筆でアルベリヒの首の辺りに一切り(?)加えると、アルベリヒは絶叫し、指環はヴォータンの手に渡る。

ローゲやヴォータンは既にヴァルハルの前に登って、炭鉱労働者の服から執事が用意した夜会服に着替え出した。もう、フライアと交換する黄金は手に入れたので、新築パーティの準備を始めたのだろう。

《第四場》
巨人に付き添われて戻って来たフライアはすぐにドレスを脱いで、黒い下着と革のブーツの悩ましい姿に戻る。

彼女の姿を見えなくなるように黄金を積む場面では、執事が重そうに運んできたお盆の半球の蓋を開けて、黄金色の子供用のワンピースを取り出して彼女の前方に置く。
悩ましい姿のフライアに子供用のワンピースは合わないが、そこに炭鉱作業用のヘルメットを被せるのでミスマッチ感が大きくなる。

話は進んで、巨人族から指輪を要求されたヴォータンが拒否すると、冒頭から右端に佇んでいた女性が、舞台中央に歩いて出てくる。
実は彼女はエルダで、最初から一部始終を見ていたという設定なのだが、かなり年配の女性の設定であり、この後、ワルキューレ達を産む様には見えない(神様だから年齢は関係ないのかも)。
エルダの忠告に従い、ヴォータンは指輪を巨人族に渡すと、ファーゾルトとファフナーは仲違いを始めファーゾルトは殺される。

《ラストシーン》
左の池では、ミーメが、指環を奪われて落胆するアルベリヒを抱き抱え、右の池では、ファフナーが、自分が殺してしまったファーゾルトの右隣に呆然と座り込む。中央の池では、ヴォータンがエルダにすがるように寄りかかっている。

ファフナーがファフナーを二三回突いて、もしかしたら生きているのではないかという淡い期待を持っていることを暗示していた。
エルダがヴォータンに何かを渡したように見えたが、エルダが最初に登場した時に拾った黄金の欠片らしきものだろうか。


《演奏》
オーケストラ、歌手とも高い水準であった。オーケストラはしなやかで、力強く、繊細で、指揮者の統率力とオーケストラの自発性がうまく噛み合っていると感じた。歌手たちも、演技も上手くこなしながら、表情を相当つけた歌唱を危なげなく披露してくれたので、じっくり聴くことができた。

《演出》
私はこの演出は非常に気に入った
電子音の追加や、演説シーンの追加については、初回の時には違和感を感じなくもなかったが、二回、三回目と鑑賞するうちに抵抗なく受け入れることができた。
確かに、彼らがホームページに書いたような壮大な課題が達成されたのかについては疑問を感じなくもないが、刺激的かつ楽しい舞台であったことは間違いない。

少なくとも、帰国後、新国立劇場で鑑賞した「ラインの黄金」のように退屈感を覚えることがない、生き生きとした活気のある舞台作品になったと思う




CAST:

Wotan - Mika Kares
Donner - Andrew Lee Foster-Williams
Froh - Rolf Romei
Loge - Peter Bronder
Alberich - Leigh Melrose
Mime - Elmar Gilbertsson
Fasolt - Frank van Hove
Fafner - Peter Lobert
Fricka - Maria Riccarda Wesseling
Freia - Agneta Eichenholz
Erda - Jane Henschel
Woglinde - Anna Patalong
Wellgunde - Dorottya Láng
Floßhilde - Jurgita Adamonytė

Sintolt, der Hegeling, Diener - Stefan Hunstein

Conductor : Teodor Currentzis
Orchestra : MusicAeterna

Director : Johan Simons
Electric music : Mika Vainio
Stage design : Bettina Pommer
Costume : Teresa Vergho
Light : Wolfgang Göbbel
Sound design : Will-Jan Pielage
Dramaturgy : Tobias Staab, Jan Vandenhouwe

A production by Ruhrtriennale

2015年5月3日日曜日


Richard Wagner : Lohengrin
25th April 2015 at Deutschen Oper Berlin


ベルリン・ドイツ・オペラのホルテン演出のローエングリンは2012年4月15日にプレミエ、2012/2013に再演、そして、今回の2014/2015シーズンと続き、さらに、次の2015/2016のシーズンにも上演される。

2014/2015シーズンでは、12月の2回と4月の2回で配役が異なり、4月ではフォークト、ハルテロス、グロイスベック、ランドグレン、マイヤーがキャスティングされている。

2015/2016シーズンも日によって配役が二通りあるので、例えば、フォークトがお目当てなら、彼が出る日であることを確認して予約を取りましょう。


私は、再演の2013年3月16日に鑑賞したが、今回のキャスティングとはフォークト、グロイスベック(彼は他の日に出ていたが、当日は確か代役であった)が共通している。
演出が非常に興味深かったことに加えて、マイヤーのオルトルートが聞けることから、また、足を運ぶこととなった。


舞台が始まる前に、劇場の人がマイクを持って舞台に登場した際には、誰がキャンセルしたのかと焦ったが、歌手はだれも問題はなく、カーテンを上げ下げする装置の調子が悪く、一番外側のメインのカーテンが使えないとのことで、一安心。
実際には、第一幕の終わりだけは、代用品の殺風景なカーテン(板?)がすごく遅いスピードで降りてきましたが、第二幕以降は装置が直ったのか、立派な紅色のカーテンが降りてきましたし、所謂カーテンコールも行われました。


ホルテンの演出の根底に流れるものは、戦争の悲惨さへの批判だと思われる。

まず、幕が開くと舞台には、沢山の人間が横たわっており、次第に、戦いの終わった戦場に倒れた兵士の亡骸であることが判ってくる。オーケストラの弦楽器に木管が加わるあたりで、舞台奥から女性が一人、二人、三人、四人と舞台に進み出て、死んだ兵士たちのなかで、自分の家族を探していく。金管が輝かしく響く際に、自分の家族の亡骸を発見したのだろうか、女性の一人が苦悶の声を上げる。前奏曲の清らかで神聖な響きとは明らかに異質な舞台が展開され、その強烈な対比には目が釘付けになる。同時に、この物語のバックグラウンドにある、隣国との戦争を嫌でも認識させられる。

前奏曲が終わると一旦幕が下り、おそらくは、倒れていた兵士がそのまま立ち上がって、ドイツ国王を歓迎するブラバントの人々を演じるというスマートな舞台処理。

一般的な演出では、生真面目な人間として描かれる伝令は頭に包帯をしており(その包帯に少し血糊が付いているのが不気味)、ブラバントの人々に国王への歓迎の意を表わすように裏で促したり、それを受けたブラバントの人々は、片手でポケットのあたりを叩くという、気乗りのしなさそうな態度だったりと、アイロニカルな演出が続く。

さて、エルザが右手から舞台中央に現れるというか、手枷足枷、目隠しまでされて、引き立てられて来る。このような格好のエルザを見たブラバントの人々が、「なんと清らかに見えることか」と歌うのも、相当なアイロニーを感じざるを得ない。

オルトルートは、エルザに付き添って中央に一緒に進み、さも気を使っているように見えるが、エルザが目隠しを外してほしいというようなポーズを見せると、さっと離れて右手の端に行ってしまう。
結局、目隠しはローエングリンが登場して少したってから外されるのだが、目隠しを外してもらったエルザが初めて実物のローエングリンを間近に見て、ハッとする表情を見せるという流れに繋げるあたりは芸が細かい。

テルラムントが国王を前にエルザを糾弾する間、オルトルートはテルラムントの少し後ろで、彼をバックアップしているような仕草を見せているのは、糸を引いてるのは彼女だということだろう。

伝令の呼び掛けに応えてエルザのために戦おうと名乗り出るものは誰もいないのだが、皆、応えないだけはなく、すこし子供っぽいポーズで両手で目を手で塞ぐというすこしコミカルな演技が付けられていた。

あわやその場でエルザが処刑される寸前に、舞台奥から白い煙が上がり、その煙の中で手に持っていた天使のコスプレみたいな白い羽根を背負ってから、ローエングリンが舞台に登場。

禁問の誓いの場面では、ローエングリンとエルザが中央で歌うのだが、ただ一人、二人のやり取りを右手で聴いているオルトルート以外は、全員後ろを向かせることで、嫌が応にも二人のやり取りに観客の神経を集中させるだけでなく、この三人を軸に物語が進んでいくことも表現するという意味でも効果的な演出だと思う。

ローエングリンとテルラムントの戦いは、舞台奥から上がってくる白い煙の中にローエングリンが一旦消えて、相手を見失ったテルラムントが煙の奥から再び現われたローエングリンにあっさり敗北するという演出で、やや拍子抜けの感もあるが、剣を実際に交えるような演出でも迫真の決闘シーンは実際上難しいので、これもまたスマートな処理と言えるであろう。

敗北したテルラムントは、右手で見ていたオルトルートの方に頼るように駆け寄るのだが、さっとオルトルートが身をよけて、テルラムントは転けて倒れるという少しコミカルな味付けがされていた。
テルラムントがつけていた首飾り(ブラバントの支配権の象徴か)は、ローエングリンのものとなり、ローエングリンを中央にブラバントの人々が彼を取り囲むという決めのポーズで第一幕は終了。

なお、メインのカーテンの調子が悪く、代用品のような殺風景なカーテン(板?)が下りてきたのだが、下りてくるスピードが遅く、出演者たちは下りきるまで待ちきれずに、途中で流れ解散?となった。従って、所謂、カーテンコールは無し。


第二幕は、巨大な十字架の形をした装置が宙吊りになっており、この巨大な十字架の装置は、エルザが出てくるテラスになるのだが、キリスト教支配の暗喩かもしれない。

その巨大な十字架の下の地面で、テルラムントとオルトルートがやり取りをしているのだが、やがて、オルトルートがテルラムントを右手端にうつぶせに横たわるように指示する。

すると左手から十字架の上を歩いてエルザが出てくる。オルトルートは、罪を償おうと反省しているテルラムントを許してくれるようにエルザにお願いする際に、横たわって意気消沈しているように見えるテルラムントをエルザに見せる。

さて、エルザがオルトルートのいる地面に降りてくる間に、オルトルートが、キリスト教以前の神々を讃えて歌うが、「ヴォータン!」という声に、起き上がったテルラムントが目を剥いて驚くような表情をしたのは、古代の神々に帰依しているオルトルートの本性を初めて知ったということなのだろう。


第三幕では、婚礼の合唱が終わると、ローエングリンとエルザの二人だけになるが、部屋の真ん中にあるベッドが不釣り合いに小さいのは、二人が結局は円満に結びつくことはないということを意味しているのだろうか。その後、このベッドは、覆われていたシーツを取られて、白い石碑となり、一番最後で別の用途で使われることになる。

ローエングリンは天使のコスプレじゃなかった白鳥の羽を外して、舞台右手に置き、エルザとのやり取りを始める。やがて、禁問がエルザの口から発せられ、テルラムントが乱入してくる。が、テルラムントは、舞台右手に置いてある白鳥の羽に気を取られて?というか、白鳥の羽に斬りつけようとして、舞台左手にいたローエングリンに後ろから、あっさり斬られてしまう。

ここで舞台転換となるのだが、ご存知の通り、意気揚々とブラバントの人々が集まってくる非常に勇壮な音楽が流れてくる。
が、この演出では、独り舞台に残されたエルザが苦悶の声を上げ、舞台転換している間、舞台後ろを隠すために降りてきた幕には、夥しい墓石の並ぶ夜の墓地に、独り佇む女性の後ろ姿が描かれている。エルザと同じように髪を後ろに束ねているところを見ると、将来のエルザの姿だろうか。そう、戦争が始まるのだ。

最後に、ローエングリンが若きブラバント公を連れてくる、というか、運んでくるのだが、少年のミイラ化した屍体としか見えないブラバント公を、二人が結ばれなかったベッドであった石碑の上に置いたローエングリンは、なんとガッツポーズを取るのだ。

確かに、これから戦争に突入するであろうラストシーンをアイロニカル表現する意図は理解できる。脚本にも、テルラムントの仲間が「あの男(ローエングリン)は、我々を脅してもいない敵と戦うために我々を出征させるのか」という台詞が出てくる。が、あまりに厳しく救いの無い演出だと思わずにはいられなかった。

観客の反応は素晴らしく、前回の2013年の再演時よりも熱狂の度合いが高いように思った。

2013年にこの演出を最初に見た際には、ラスト・シーンのあまりの救いの無さに唖然呆然、大げさに言えば目にしたものが信じられないくらいで、そのラスト・シーンを確認するために今回、再度足を運んだとさえ言えなくもない。

二回見ることで、輝かしい英雄物語の根底に流れる隣国との戦争という悲惨な現実を浮き彫りにするという演出家の意図はよく理解できたし、その意図が思いつきではなく、このオペラの脚本を読み込んだ結果であり、それゆえの説得力を持っていることもよく解った。
某国の国立劇場の同じ演目のように、何の問題意識も無いような演出では無い点、さすが、ホルテンと思わずにはいられなかった。

実は、確認したい点の一つであった、ブラバントの人々に、童話に出てくるような中世風の衣装を着た人と、現代風の兵士の服装をした人がいるのは何故かという疑問は、今回も解けないままで終わった。
ベルリン・ドイツ・オペラでは、定番のワーグナーのオペラを同じ演出でかなり長く続けていくので、この謎解きは、次回のお楽しみとしておこう。


Casting 2015/04/25
Musikalische Leitung Donald Runnicles
Inszenierung Kasper Holten
Bühne, Kostüme Steffen Aarfing
Licht Jesper Kongshaug
Chöre William Spaulding
Heinrich der Vogler Günther Groissböck
Lohengrin Klaus Florian Vogt
Elsa von Brabant Anja Harteros
Friedrich von Telramund John Lundgren
Ortrud Waltraud Meier
Der Heerrufer des Königs Bastiaan Everink
1. Brabantischer Edler Paul Kaufmann
2. Brabantischer Edler Álvaro Zambrano
3. Brabantischer Edler Noel Bouley
4. Brabantischer Edler Thomas Lehman
Chöre Chor der Deutschen Oper Berlin
Orchester Orchester der Deutschen Oper Berlin